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訪問4コマ⑳『Aさんとのリハビリ』

 

 

私が在宅の仕事を始めることになったのは本当に偶然であり、自分が望んだわけではなかった。しかし結果として在宅の仕事にドハマリしている自分を客観的にみると、人生ってなんだかなぁなんて思うわけで。。。

 

この仕事をしてつくづく思うのは、島倉 千代子ではないが「人生いろいろ」だ。そして今私がお手伝いしているご利用者様方は先の戦争を経験し乗り越えて、激動の時代の流れを直に経験してきた方たちだ。
私にも90を超えたばぁちゃんがいるが、こんなにリアルな戦争の話を聞くことはない。
その時代に東京に住んでいたからこそ感じたもの、経験したことがあるのだなーと思う。

ご利用者様が話す戦争の話は、語弊があるかもしれないが「面白い」。それは戦争に対して各々考えてきたことや感じたことが違うだけでなく、その後の人生にやはり影響しているなと思うからだ。

 

 

さて、Aさんのお話だ。
Aさんは当時90代。娘様と二人暮らし。
癌の既往があり自宅で療養生活をしている。いまは特段問題はないが日中は娘様が忙しいため一人で過ごすことが多く、横になっている時間が多いため活動量が少ない。よって活動量を増やすべくリハビリを!と始まった方であった。

Aさんの身体機能は、一言で言ってしまえば「動かないだけで問題はない」やろうと思えばできる。つまりやらないだけ、、、だ。

私の持論でもあるが「心が動かなければ、身体は動かない」。

Aさんはまさに動かすだけの機能は持ち合わせているが、動くための原動力「ココロ」が動かないため活動量が減っている典型的な例であった。

 

 

訪問リハビリに携わっていて思うのは、病気や怪我などで身体機能が低下したご利用者様はリハビリに対しても意識が高い。一方で在宅でのリハビリの依頼は病気が起点ではなくあれあれ!?と身体機能が落ちた方も対象となり、そんな方はリハビリの必要性を感じてない方が多い。

 

 

Aさんも何を提案しても「今日はいいよー」の一点張りであった。

歩くことが1番の運動と考えるが、なかなか外に連れ出せない。まさにどーしましょ?という状態だ。子供騙しのようにアレコレ提案する私。もちろん、認知機能は比較的しっかりしていたAさんは私の子供騙しには乗ってくれない。

 

困った”(-“”-)”ってみた。趣味の話や好きな食べ物の話など。会話にはなるが、ただの会話に過ぎない。

いくつかの会話の中でAさんと戦争の話になった。Aさんは戦時中多くの経験をしてきた。当時の話を懐かしむように、昨日のことのように話す。
その一つ一つが教科書では学べないリアルな話。
外歩きを拒否するAさんとは思えないほど、言葉が溢れてくる。

私はAさんに、「また教えてください!」とお願いしてみた。

するとどうだろう。
次の訪問の時に、Aさんは当時の写真や大事に取っていた戦中の物を私に見せようと準備していたのだ。日頃動かないAさんから考えるとこれはすごいことである。

Aさんにとっては戦争という経験は人生に多大な影響を与え、そして伝えるという作業は「ココロ」を動かすきっかけであったのだ。

そして寂しそうに、いま生きることに執着はなく、多くの友人が一人一人と旅立ったことを話す。

私は思った。

ポッカリと空いた心の隙間を埋める術は今の時代にないのかな?

私はそれからAさんには『外歩きましょう!』と提案せず、本人の気持ちに沿うリハに変更した。

『今日はどうしますか?』と声掛けも変えてみた。

すると外を歩かなければという義務感から解放されたのか(私の憶測だが)たまに外に出るようになった。

それは車椅子を使ったりであったり、杖をついて少し歩いたり、本当にその時その時で様々だ。

しかし、一方でAさんの担当者会議の場面で、娘様からはもっとリハビリの時に外に出して欲しいという要望が聞かれた。少しでも元気でいて欲しい!という家族だからこその意見である。きっとAさんも娘様の気持ちはわかっているのだろう。その気持ちに応える事のできない自分に、情けなさも感じているのか何も言わない。

私はリハビリの現状を伝えた。その時その時のAさんの体調、気持ちに沿って介入していると。
その対応は活動量確保という目的からいえば達成してない。リハとして効果的な介入できているかといえばできてないだろう。

 

娘様からの返答は、、、

『その気にさせるのもプロとしての仕事ではないのですか?』

確かにおっしゃる通りである。

 

 

8月。戦争、終戦の話題がテレビで取り出されるころ。私は改めてAさんとのリハビリと娘様の一言が思い出される。

プロとして、専門職としての責任とともに在宅という環境では人としての対応が必要だというジレンマ。

人生いろいろ、在宅リハビリいろいろ。

私は今日も答えのない質問に頭を悩ませながら、多様性という如何様にも変化する在宅リハビリの面白さにアレコレと構想する。

そんな毎日に「イロイロ」と合いの手を自分で打ってるのである。

2022.08.17

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