訪問4コマ漫画㉛「ニーズについて考えてみた」
先日、テレビを見ていると『認知症基本法』が参議院本会議で全会一致で可決・成立した。
医療、介護従事者にとっては、おおっ!と耳を傾けるニュースであった事は間違いない。
法案の中での基本理念として
・常に認知症の人の立場に立ち、認知症の人及びその家族の意向の尊重に配慮して行われること。
と明記してあるが、果たしてそれは現場でしっかり実践できているのかな?と我が身を振り返りながら感じたのだ。
サービスを提供するにあたり、本人、家族の主訴、いわゆるニーズを確認する必要がある。
先日とある研修会に参加した際にニーズの捉え方に関しての講義があった。
我々福祉、医療職はサービスを展開していくにあたり、本人、家族の「ニーズ」を大切にする。いわゆる本人・家族が何を求めているか、どんな主訴を持っているか。ということ。
しかし今回の研修ではニーズを整理することの大切さを身に染みて感じたのだ。
ニーズには
①フェルトニーズ(主訴):本人・家族が感じるニーズ
②ノーマティブニーズ(規範的ニーズ):支援者が必要だと考えるニーズ・支援者の憶測
③リアルニーズ(了解されたニーズ):本人との確認によって整理されたニーズ
以上3つあることを学んだ。
なるほど!
私はこの研修を通して、ずっとモヤモヤしていたものが少し晴れた気がするのだ。
昔むかーしのことだが、まだ理学療法士になって数年。病院内勤務から初めて訪問業務についてしばらくした時のことだ。
訪問業務においてもリハビリ計画書を作成する。その中では本人家族の希望を記載する項目がある。
各利用者様にこれからの生活をどうしたいか聞いた際に、言葉詰まらせる場面が幾度もあったのだ。
どんな生活が待ってるのか、どんな生活ができるのか皆目検討がつかない。と言ったところであろうか。
それは特に、骨折や脳梗塞などにより入院を経て、在宅復帰した利用者様、つまりは退院してからもすぐに訪問リハビリ導入となった方に多く見られる傾向だなと当時は感じた。
偉そうな言い方になるが、つまりは入院生活の中でいかに在宅生活をイメージさせ、またその先も描けるような退院時支援ができてないからかな?なんて思ったりも当時はしたものだ。
そのような状態でスタートするリハなので、なんとなく雲を掴むような場面も幾度もあり、『歩行器を使って歩けるようになる』というような目標をかかげるが、それはただリハビリのための目標であり、生活、大きく言えばその方の人生の目標にはなってないな。と思うことが多かった。
モヤモヤは募るばかりであった。
ふと、先程話したニーズを振り返ってみよう。
『歩行器で歩けるようになる』
一見、本人、家族が望むことのように見えるが、果たしてそうであろうか?
私はこの目標にもう一言付け加えたい。
『歩行器を使って家族と箱根旅行に行きたい。』
だとか、
『近所のスーパーまで歩いて行き買い物をしたい。』
などなど。
つまりは、なぜいま歩行練習をしているのか、その目標は?と突き詰めたいのだ。
具体的に旅行などの項目が上がらなくとも、
『90歳を迎えるまでは1人で歩いてトイレに行きたい。』
などそんな目標だと、なんだかリアルである。
専門家からしてみれば歩行練習をすることの意味を挙げれば沢山ある。体力を落とさないとか、活動量を維持するだとか。ただそれはノーマティブニーズであり、利用様からしてみれば、言われなくても分かってるよ。と突っ込みたくなるであろう。
だからこそニーズの整理が必要なのだ。
時として、特に認知症の本人、または家族からは主訴がなかなか出てこないこともあるだろう。
それはそれで間違いではなく、いまは分からない、それが正解なのだ。つまりは、主訴に気付ける、または引き出せるような関わり方をしていくことが大事で、我々は常に柔軟に対応していかなければならないのである。
特に価値観が多様化している昨今、生き方・死に方にも様々な意見が飛び交うであろう。
それに対応するべく、そしてだからこそニーズの整理が必要なのだ。
とある利用者から
『○月にひ孫が生まれるの。それまでは生きたい。』
と話があった。
なんて素敵な主訴であろうか。
そして専門家の私はこう返したのである
『物心つくまで生きてないと、忘れられますよ。なのであと2年くらいは生きましょう。』
『無理よ〜。』
リアルニーズの整理には失敗したが笑。とても心温まるやりとりができたことに、やはり在宅支援の楽しさをまた感じることができたのであった。
2023.07.12