訪問4コマ⑦「健康ってなんや!?」
「健康志向」とか「アンチエイジング」とかテレビをつければ身体にいい情報がたくさん流れてきて、新聞を開けば体に悪いことは!?と見出しに目を奪われる。
きっと、ひと昔前とくらべて自分の身体のことに関心を持つようになったのはとてもいいことだと思う反面、沢山の健康情報に囚われているのも真実。
この仕事をしていると、ついつい目と耳が健康情報向くのは職業病といえよう。
理学療法士っていう仕事をしていると、ケンタッキーを食べながらもついつい関節を確認してしまうのは私だけだろうか?
さて、そんな健康説をことごとく潰してくれたのがだれでもない、Mさんだ。
・・・専門家もお手上げである。
Mさんのリハビリの依頼内容はこうだ。
『家から出ない、ディサービスもいきたくない。なので、家の中でリハビリをお願いします!』
よくあるパターン。
引きこもり高齢者、だんだん身体機能が低下してくるというのがセオリーだ。
しかし、出会ったMさんは違った。
たしかに引きこもり高齢者。
ここ数年間、家から一歩も出ていない。特段、運動もしていない90代。
しかし目の前のMさんは、どこにそんなパワーがあるのかと思うほど。。。身体は痩せっぽっちにも関わらず、階段もすたこらさっさと昇り降り。正座はできるは片脚でバランスをとるわ、挙げ句の果てには、若いころに習っていた合気道の型をさーっと取ることができる。
感動したわたしが「動画を撮らせて欲しい」と熱望すると、得意気にサービスポーズでも構えてくれる。
理学療法士も目が点だ。
何を食べればこんなに健康なんだ?何をすればこんなに運動機能高く維持できるんだ?
誰もが抱く疑問だ。
私はリハビリそっちのけで、興味津々、目がルンルンだった。
しかし当の本人Mさんは、、、
好き嫌いは多いし、野菜は食べない、運動も嫌い。体に良いことはなーーんもやってないときた!
お肉も嫌い、ご飯はちょっぴりしか食べない。カントリーマアムは大好き!笑
どこの書籍を開いても、そんな健康法は書いていない。
カントリーマアム健康法があるなら私はやっているはずだ!!!
リハビリの回数を重ねるごとに謎は謎を呼ぶばかりである。
そんなMさんと長く付きあうにつれて、ひとつ感じたことがある。
「それはMさんは無理をせず、そして心穏やかであること」
高望みをせずあるがまま、誰かに勝つことよりも自分らしさを生涯貫いている。
ある日脳トレと称して、ことわざ穴埋め問題をおこなった。
問1)石橋を◯◯◯◯渡る。
Mさんの回答
『石橋をおどって渡る』
人生そんなに慎重にならなくとも、いかなる困難も踊っていこうぜぃ!
Mさんらしい回答である。
その回答を聞いた私は、Mさんの長生きの秘訣を感じた。
穴埋め問題としては、不正解も、、、
人生を生きる手引きとしては大正解であった。
人生踊って渡り歩く。
むーー。今の言葉だとパリピか!?
— 完 —
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2021.07.05
マザース通信 6月号 Vol.38
2021.06.09
訪問4コマ⑥「えっちゃんとの出会い」
えっちゃんとの出会い。
あえて、イニシャルではなく、えっちゃんと呼ばせてもらおう。
えっちゃんは私にとって忘れられない、いや、忘れようにも強烈なキャラクターが脳裏にべったりとへばりついているのだ。
えっちゃんは前向きだ。
えっちゃんは若くして病気を患った。30代ではなかろうか。出産を機に脳出血を患ってしまったのだ。
人はこの状況を可哀想だと思うかもしれない。
えっちゃんは前向きだ。
当時は今のように介護保険は整っておらず、身体に障害をもち生きていくのはきっと容易ではなかったと思う。きっと悔しい思いも沢山したであろう。
人はこの状況を気の毒に、、、と思うかもしれない。
えっちゃんは前向きだ。
長く一人暮らしをしてきたえっちゃんだが、ある時転んでしまった。転んだ際、腰椎に怪我をしてしまい、いわゆる対麻痺、両足が麻痺して動けなくなってしまった。
人はこの状況を自分の人生と比べて、どこかほっとしているかもしれない。。。
えっちゃんと初めて会った時のこと
ピンポーン
私『こんにちわー』
えっちゃん『先生〜。いらっしゃーい。助けてー。』
扉を開けると、車椅子から今にも落ちそうなえっちゃんが笑顔で手招きしている。
カオス。。。
えっちゃん『夢中になってたら身体が落ちちゃった』
すぐさま助けに向かう私である。
そんな状況は屁でもないえっちゃんだ。
えっちゃんは公営住宅にて一人暮らし。ヘルパーさんの手を借りながら生活をしている。
会った時は60代。まぁまぁのおばさんだ。
しかしココロはピンク色のえっちゃんだ。
『先生はどんな人がタイプ?私のタイプ分かる?』
えっちゃんトークの始まりである。
えっちゃんのタイプは言わずもがな、壁に嵐の松潤と巨人の高橋由伸の切り抜きが、ババババーーーンっと貼ってある。
『松潤ですか?』と私。
『えぇーーなんでわかるのー?かっこいいよねぇ』
はぃわかりますとも。
頬を赤くして、熱く松潤を語るえっちゃん、ときめきを忘れてない。
えっちゃんはよくやらかす。
普段は電動車椅子を乗って生活をしている。
そのスピードたるや、車椅子暴走族と言われるくらいだ。
『先生、昨日ねセブンイレブンまで買い物に行ったの。うっかり段差を登れなくて車椅子ごと倒れちゃった。』
笑いながら報告するその顔はガキ大将そのものだ。
全く、反省すらしていない。
えっちゃんの目標は明確だ。
『自分の足で立ちたい!』
手間はかかる物の、スタンディングリフトを使用してトイレに行くことを習慣にしている。
自分の好きなこと、やりたいことが明確でありそれに対しては貪欲に求める。
長年、訪問リハビリにてお手伝いしていて思うのは、何がしたいか、どうしたいかがわからないことが少なくないことだ。
入院していると『退院』することが目標となり家に帰ってからあーしたい、こーしたいという具体的な目標がなく、あれよあれよと月日が流れてしまっていることが多い。特に病気を患ってしまったことで、見えるはずの目標が見えなくなっていることも。。。
しかし私は、利用者さんにとって伴走者だ。押し付けがましい目標は達成することも、満足感も得られない。
私は常に思う。どうしたら利用者さんが毎日が楽しくなるだろう。明日が楽しみになるだろう。目標が生まれるだろう。
そんなとき思い出すのはえっちゃんだ。
残存機能を生かすとか、障害受容とかそんな言葉では言い表すことできない、何かがきっと生きることに貪欲になったり、楽しみになったり、行動を起こすのだろう。
えっちゃんは言う
『先生も美人だけど、私にはかなわないわね。』
はぃはぃ。そうですね・・・
— 完 —
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2021.05.31
訪問4コマ⑤「新人(ペーペー)のころ、、、」
かれこれ10年ほど前、リハビリでお手伝いさせていただいた方の話だ。
当時の私はペーペー。
在宅の世界に足を踏み入れたばかり。何も知らない若造だった。そんな時、当時勤めていたステーションにこんな依頼があった。
『余命あと1ヶ月もつかどうかわからない。在宅でリハビリをお願いします。』
はて、、、ざっくりとした内容の依頼である。
当時の私には十分な人生経験も、療法士としての経験もなく、在宅で看取るということに関してイメージを持っていなかった。
『リハビリ、、、何をすればいいんだ!?』
というのが正直な心の声である。
初めて会ったAさんは、とてもとても痩せていた。部屋に飾ってあるお孫さんと一緒に撮った写真とは、同一人物には思えないほどお痩せになっていた。
しかし自分で歩くことはでき、1人でトイレに行くこともできていた。ただ座る時間が長くなると苦しくなるため、昼夜問わず横になっていることがほとんどの状態であった。
当時の私は、
『リハビリは何かしてあげなければならない』と考えていた。
・困ってることはないかな?
・痛いところはないかな?
・やりたいことはないかな?
・どうしたら楽になるかな?
答えは見つからない。わからない。。リハビリ計画も立案できない。。。
途方に暮れた私は、共にAさんのケアに入っていた看護師さんに相談した。
『私、Aさんにどう関わればいいのかわかんないんです。何をすればいいのか、、、』
ベテラン看護師さんは、ペーペーの私を見捨てることなくアドバイスのような課題を示してくれた。
Aさんと私(看護師)の今の関わりは痛みや苦しさのコントロールが重要で、身体のことの相談はよくしてくれるけど、それ以上をAさんから引き出すことはできない。
『リハビリなら身体のケアや何気ない関わりから、本人が家族にも吐き出せないことを引き出せるんじゃないのかな?』
私は考えた(・´з`・)
Aさんは病気になったことを、家族に迷惑をかけ申し訳ないと言っていた。そして段々と弱っていく身体を、家族が悲しんでいることに申し訳なさを感じていた。
幼稚な頭(おつむ)と浅い経験から導き出した私のリハビリ計画は『申し訳ないという気持ちからの脱却計画』だった。
今思うと本当に幼稚である。ぉ恥ずかしい( ;∀;)
Aさん、申し訳ないって思わないで、誰かのためになってるんだ!って感じて欲しい。
(当時、幸いなこと!?に私には恋人という人物に恵まれずにいた。笑)
いつの時代、世代も恋バナって好きだよな・・・
と思い、リハビリ中に私の身の上相談をAさんに持ちかけたのだ。Aさんにとっては迷惑な話である。赤の他人の若造が『恋人ほしーー』なんてどうでもいい話だ。私だったらそう思う。
しかし、Aさんは私の身の上話を笑い飛ばすことなく真剣に耳を傾け、リハビリ以外の時間も使い私にアドバイスを考えてくれた。『あそこの息子はどーかな?』とお節介までやいてくれた。貴重な時間を私の身の上話に頭を悩ます。勿体無いったらありゃしない、、、
だが、私に人生の【イロハ】を教えてくれるAさんのその顔は、長く座るのが苦しいと言っていた時よりも生き生きしている。ペーペー療法士にもよくわかった。
Aさんは私のために、色々考えてくれたのだ。
そしてある時、Aさんは言う。
『リハビリでね、足踏み10回とかやるでしょ。正直しんどいけど、“10回できた”というのが励みになるんだよ。普段は苦しいからやりたくはないんだけど、身体ケアしてもらっておしゃべりとかするとね、気が楽になってね~足踏みもできるんだよね!』と。
身体は最期に向かって進んでいる。
リハビリは目標を設定し、結果を求められる。
・何もしてあげられなくても、、、
・結果が伴わなくても、、、
・生活が変わらなくても、、、
私はAさんが亡くなる1週間前まで、リハビリとしてお手伝いさせていただいた。
身体はより苦しくなり、足踏みをすることもできなくなってしまっていたけど、リハビリを休むことはなかった。余命1か月と言われてたAさんは、半年近く家で過ごすことができた。申し訳ないという気持ちがなくなったわけではないと思う。
『私とのリハビリの時間は、何か他のことを考えてくれる時間になったかな?』
私は今でも壁にぶち当たる。
療法士としての限界を感じる。
そんな時ふと思い出すのだ!
あの幼稚なリハビリ計画が、あの生き生きとした顔を引き出すことができたことを。。。
— 完 —
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2021.04.28
マザース通信 4月号 Vol.36
2021.04.08
訪問4コマ④「96歳の糸くず工場長」
100歳が珍しくなくなった昨今。私は何歳まで生きるのかなぁぁなんて思ってみたりして。長生きするぞ!と意気揚々に掲げる反面、不安もチラホラ。。。
なぜなら、90歳を超えた時の自分の元気な姿が想像できないからだ。
人に迷惑はかけてないだろうか。。
一人で寂しいのかな。。
歩けるのかしら。。
なんてネガティブな妄想は尽きない。。。
私の出会ったHさん。当時96歳。明治生まれ。
お家の中ですっ転んで大腿骨を骨折。手術を経て晴れて自宅に帰ってきた方だ。その時点で大変素晴らしい。拍手喝采ものだ「パチパチパチ」
娘様と同居しているHさん。娘様もそれなりの年であるが、お母様に負けじ劣らず非常に元気である。親子揃って穏やかだが、口はなかなか悪く、THE 毒舌親子である。
さて皆さん、100歳を目の前にした女性がどのような毎日を送るか想像つくだろうか?
テレビを見たり、縁側でうとうとしたりと時間をゆっくり過ごすのをイメージする方も多かろう。
、、、昨今縁側というのは珍ししいか???
しかし、このHさんは忙しいのである。
ご高齢の方が自宅で生活を送る際、介護ベッドとサイドテーブルをレンタルする事は多い。サイドテーブルの役割は、食事をベッドでとる際に活用したり、身の回りのものを置いたりと多岐にわたる。
がっ! しかしだっ!!!
私はかつて「ミシン」が載っているサイドテーブルを見たのは、後にも先にもこのHさんが初めてだ!
Hさんの毎日は忙しい。
日中はベッドの上でミシンを踏む。ひたすら黙々の作業である。もともと手先が器用なHさん。生きてきた時代もなんでも自分で作って生活をしてきた。そのため作品の完成度もとても素晴らしいものである。
「私、工場長なの♡」
Hさんは自分のことをそう呼んだ。
こっ、工場長!平社員ではなく「オサ」なのである。なんてお茶目な方なんだ。
従業員1人の工場(自室)で今日も工場長は巾着袋や服をひたすら作成している。
工場長は「糸くずババァ」と家族に呼ばれていた。
同居の毒舌娘様がお母さんにつけたニックネームだ。ベッドの上で作業をするためベッドは糸くずだらけ。そのベッドで就寝するため、なぜこんなところに、、、と目を疑いたくなるところに糸くずがくっついているのだ。なかなかの、家族にしか付けられないないネーミングセンスである。
「もう汚いなぁ-」
と毒を吐きながらいつもベッド周りを掃除する娘様。
「この布可愛いでしょ!何か作りなさいよ!」
言葉は強めだがお母様のために買ってきた娘様。
可愛い布。愛情を感じる。
工場長は今日もミシンを踏む。
誰かのためではない。
売るためでもない。
黙々とミシンを踏む。
工場長は今日も糸くずだらけ。
糸くずババァと呼ばれてる。
でもどこか嬉しそう。
顔はいつも笑顔である。
工場長、、、そのお茶目さと、ひたすらミシンを踏む姿。
老いる姿には正解も間違いもなく、優劣もなく、勝ち負けも存在しないと思う。
自然でいいのだ。
不安があってもなくても、楽しくても悲しくてもなんでもいいのだ。
あるがままに生きる工場長。
ちなみに工場長の好物はマクドナルドのエビフィレオらしい!!!
さすが工場長。。。
— 完 —
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2021.03.31
訪問4コマ③「これぞ最高のファッショナブル」
衝撃的な出会いだった。
「おぉぉ!!!」
つい言葉では発しなかったものの、喉の寸前のところまできていたのは言うまでもない。
初対面でここまで強烈な印象与えてくれたのは、Aさんが初めてであった。
Aさんは以前もお話しした鉄道オタクの方である。
Aさんは長年患った糖尿病のため視力が低下しており、また足の指も数本切断していることから日常生活において私たちが思う以上に不自由しているのは言うまでもない。
そのためか否か、初めてお会いした時、Aさんはなんとリハビリパンツ1枚履いて、いやリハビリパンツしか履いていない状態であった。
「えっ、なんで?」
・・・後々理由は納得いくのである。
Aさんは一人暮らし。昼夜逆転の生活を長年続けている。洋服を身に纏うとトイレに行くにしても着替えるにしても非常に手間がかかる。また、きちんと着れていないことも多く、転倒などの危険がある。よって、リハビリパンツ一丁というスタイルが一番機能的で実用的で、正装スタイルなのだ。
そんなAさん。リハビリではご自身で動かすことができない関節運動や筋トレをメインに実施しているが、時には屋外歩行練習を行うこともある。
さぁここで問題です。
「Aさん外に出る時はどんなファッションでしょうか?」
はぃ、もちろん服を着ます。一人ではなかなか着ることができないため、お手伝いをさせてもらい着替えを行う。
なぁんだ、普通じゃん!と思われた方。。。
「ぶっぶぅ〜〜!!!」
Aさんを舐めちゃダメだ。AさんにはAさんのファッション信念がある。あの有名なサッカー選手ヒデ・中田が両腕に時計をつけて話題になったようにAさんにも信念があるのだ。
Aさんのスタイル。。。それは、スキー用のゴーグルをつけて外出することである。「えっ?」と思ったそこのあなた。きちんと目的があるんです。
糖尿病による目の機能低下に加え、普段外に出ることが少ないAさんは昼間の太陽の光が非常に眩しく危険なのである。そこで考えに考えた結果、スキー用のゴーグルを着用するというスタイルに到着したのである。
あの中田にも思いつくまい!笑
セミの鳴き声も聞こえそうな昼間。とてもアンバランスなファッションスタイルのAさん。ゴーグルのレンズには私の顔もバッチリと反射している。
意気揚々とたまの外出にテンションの上がるAさん。向かうはスーパー。目的は、Aさん好物の甘い「懐中もなか」と「どら焼き」。
ゴーグルの下には嬉しそうなAさんの顔が浮かぶも、きっと訪問看護師さんに血糖値が高いと怒られ、どら焼き取り上げられるんんだろうな・・・
と思いながら、たまの屋外歩行練習を楽しむ私であった。。。
— 完 —
produced by hyoudou
2021.03.04