訪問4コマ①「致死量のインスタントコーヒー」
とあるTV番組にて、
『ボランティアや寄付は受ける側より提供する側の方が3倍幸福感がある』と...
確かに共感できる。
訪問現場でも同じことが言えないだろうか?
基本、我々はご利用者様からお茶やお菓子などを頂かないことを大前提としている。
しかし、私はここでふと思う。
「利用者様の幸福感を奪ってはいないかと?」
ちょっと都合のいい解釈に聞こえてしまうかもやしれない。
リハビリ目線の上から目線でもっと都合のいい解釈をすれば、お茶をもてなすこと自体が社会参加、日常生活動作練習・・・なんてね。
さてさて、とある訪問現場でのこと。
ここで登場するのはちょっといい生活をしてきた奥様。80代でありながら非常に可愛らしく、いつもカチューシャなんて小綺麗にされてる方。既往の脳梗塞後遺症で右手がやや不自由であるが、身の回りのことは何とか自分で可能な方。
若い頃は演劇や旅行などいろいろ楽しんだ。お琴の先生もしていたとか。今は旦那様もお亡くなりになり、一緒に住んでいる娘様も仕事で忙しい日々。
日中は一人での生活。日中の活動量を上げるためにディサービスにも挑戦したけれど・・・
「私にはこういうところは向かないわ!」
よく聞くケースだ。あんなところ行きたくないパターン。
リハビリでは少しでも活動量・範囲を広げていけるように“屋外歩行練習などを取り組んでいきたい”というのがセラピスト目線での目標である。身体機能的にも何ら問題はない。
しかし、現場はそう簡単にはいかない。
「ピンポォ--ン♪」
「はぁぁい」甲高い声が聞こえる。
「いらっしゃい。さぁ先生!まずは一息ついて。」
お決まりのお茶タイムが始まる。すんなりリハビリが始まらないのである。
ちょっと不自由な右手を使いながらも懸命にコップを戸棚から出し、インスタントコーヒーの瓶に手をかける。
その間、私はひたすら待つのである。決して手伝わない。そう、これは日常生活動作練習だから・・・笑
ポットからお湯を注ぎ
「はい、先生どうぞ。暑いから気をつけてね。」
あっつあつのコーヒーが差し出された。
カップの中には濃厚なコーヒーの匂いと、溶けきれなかったのかインスタントコーヒーの粒が、、、
不自由な右手で一生懸命に注いだインスタントコーヒーはドバドバ注がれカップの中に。カップに入るお湯の量では到底溶け切れることもなく、ぷかぷかと粒を残しながら、グツグツと黒く私を迎え撃つのである。あまりにも黒く、覗く私の顔も映っている。
『ピコ-ン、ピコォ--ン」私の胃が警鐘を鳴らしているのがわかる。
私の胃『飲むな、、、飲んだら死ぬぞ。。。』
飲み干さなければリハビリは始まらない。そう、そうなのだ。奥様も幸福感にかけても!
胃が「うっ」と唸りを上げる。しかし、コーヒーを飲み干す。「うぅぅ、濃い!!!」
「さぁ、今日は天気がいいから外でも歩きましょうか?」
「コーヒー淹れるのに時間かかったし。今日はいいわ。」
と。満面の笑み。そう、きっと幸福を3倍を得たのであろう!笑
胃はシクシク言っている。
今日もまた、何か対策はないかと自分の胃と相談するのであった。
— 完 —
produced by hyoudou
2020.12.28