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訪問4コマ漫㊷「頑張る姿はオリンピアン級」

今年の夏は暑い。
そしてさらに熱を帯びる出来事としてパリオリンピックが開催された!
この記事を書いている最中、各国代表選手が様々な想いを背に戦い、その想いが我々を感動させる。そして興奮させる。
こんなに興奮したら暑いったらありゃしない。

選手たちの努力を惜しまず練習を重ね、目標に向かって突き進む姿。

ふとSさんの姿と重ね合わせてしまった。

Sさんは芯の通った男性であった。

S様は「黄色靱帯骨化症」という難病を抱えていた。
黄色靱帯骨化症とは、、、
脊髄(神経)の後ろにある黄色靱帯という靭帯が、骨化してだんだん大きくなってしまい神経を圧迫して、おもに足の麻痺を起こす病気である。足のしびれや、歩きにくさ、膀胱の働きの低下が認められる病気だ。

私がリハビリで初めてお会いした時はすでに下肢の麻痺が進んでおり自身で動かすことができず、室内でも車椅子を使っての移動であった。

白黒はっきりした性格で、難病であるにも関わらず申請するのが億劫だ!という理由で難病申請も断り、自身にとって何が必要だ!これをしてほしい!などはっきり伝えることができる人だった。

リハビリ介入した際もSさんからは
『これ以上、体を悪くしたくない。良くしたい。そのためのリハビリをやって欲しい』と
はっきりとおっしゃった。

そしてSさんの素晴らしいことは、決して受け身ではなく、積極的で努力家で、そして何より今まで出会った方の中で1番と言っていいほど野心がある方であった。

Sさんは奥様が先に旅立たれ、男1人住まい。しかしできる限りの身の回りのことはご自身で行なっていた。炊事洗濯も行なっていた。本人曰く、思いの外家事が好きだったと。自分の新たな一面を面白おかしく教えてくれた。

Sさんは両下肢が動かないため、室内も車椅子である。
皆さんは両下肢に力が入らない状態で車椅子からベットへの移動できるだろうか?

上肢の力を使い、お尻を浮かすようにして移動する。またはスライディングボードをお尻の下に敷いてお尻をズリズリと移動させながら移動する。
理屈は簡単であるが実際やるのは非常に大変だ。

Sさんは当時すでに80代。
しかし上半身はすこぶる鍛えておりベットの下にはとても高齢者の部屋にはそぐわないダンベルがゴロゴロと転がっていた。

『めっちゃ重たいダンベルありますね。』

何気なく言葉を交わすと

『自分で車椅子乗れなくなったら困るからね。』

と。
毎日鍛えているようだ。

そのため移乗動作もヒョイっとやってのける。

そして、リハビリ時間はいつも楽しく一生懸命だ。
一生懸命に頑張る姿に、指導したことを真摯に取り組む姿に、リハビリ冥利に尽きる想いでいっぱいであった。

Sさんとリハビリを重ねるなかで、ふと壁に飾ってあった車の写真に気がついた。

「Sさん、この車めちゃかっこいいですね。」

車好きだった私もついつい写真に食いついてしまった。

するとSさんは
「かっこいいでしょ、元気な時に乗ってたんだよ。」

「もう足が動かないから無理なんだけど、本当はまた車に乗って運転したいんだ。」

「こんな身体になって、本当に悔しい。」

と話してくれた。
普段は見せない姿だった。

「ヘルパーさんとかも、1人で色々頑張ってすごいですね。とか言ってくれるけど、本当はいろいろ悔しいんだよね。こんな身体になって」

私はすぐに言葉を返すことができなかった。

なぜなら、
いつもSさんの難病を患っても頑張る姿や、80代の人とは思えない身体能力など、見えている部分ばかりみていた。

「すごいですね。」とか「頑張ってますね。」とか声をかけていた。

それがSさんにとっていい事だと思っていたからだ。

Sさんが見せた、いつもと違う姿はそれっきりでそれ以降もいつもと変わらず努力を惜しまず、前向きにリハビリを取り組んでいた。

在宅現場では本人のやる気を出してもらうためや、頑張っていることを認める、共感するために前向きな言葉を書けることが多い。

しかしそれだけでは本人の気持ちを汲み取ることができているのは言えないと切に感じた。

よく、共感力とか、相手の気持ちに寄り添うとか介護や医療の現場では聞くが、真の意味での共感するとはどういう接し方なのか、いま一度考えるきっかけをいただいた。

ある時、Sさんが移乗動作の時にうまくスライディングボードがはまらないと相談受け、私がレクチャーしながら指導する時があった。
Sさんとは別の理由で私は自分のお尻の下にスライディングボードを敷くことができなかった。残念な状態である。。。

「Sさん、ちょっと私うまくできないんですけど、こーすればお尻の下にボード挟めると思いますよ。」

「そだね、僕よりお尻の肉が沢山あるからね。」

Sさん、そこは共感力、いや察して欲しい。。。

それからしばらくして、私は担当を離れてしまったが、、、
Sさんはきっと今も努力を続けているだろう。
その姿は、オリンピック選手にも肩を並べると私は思う。

その努力の先にぜひカッコいい車を運転していているSさんがいることを今も願っている。

2024.09.11

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