訪問4コマ漫画 ㊾「お、も、て、な、し。のココロ」
日本政府観光局によると『2025年7月の訪⽇外客数は 3,437,000 人で、前年同月比では 4.4%増となり、7月として過去最高であった』とのこと。
確かにこの夏は、暑いにもかかわらず右を向けど左を向けど、外国の方が日本の文化を、観光を楽しんでいる姿をたくさん見る。
暑い暑いと怠け、インドア生活を送っている私には、遠い国からはるばるいらっしゃった外国の方々のバイタリティたるや、崇めるに値する。
とまぁ、日本を高く評価し、楽しんでいただいているのにはきっと理由もあるのだろう。
その一つに、2013年9月7日に開催された第125次IOC総会で、東京オリンピックの招致プレゼンテーションでの滝川クリステルさんの『お・も・て・な・し』は大きな話題を呼んだ。きっとあの映像からも日本を連想する外国の方は多いに違いない。
訪問リハの現場でもいわゆる『おもてなし遺伝子』を持った利用者様に遭遇することは多々ある。
Aさんとのお付き合いは早10年近くなる、レビー小体型認知症という難病を患い徐々に低下していく身体機能、認知機能。
レビー小体型認知症とは、アルツハイマー病に次いで多い認知症で、特徴的な症状としては「幻視」や、「パーキンソン症状」がみられ、物忘れやうつ症状なども認められる病気である。
Aさんも出会った当時は歩行器を使って1人で歩いたり、屋外歩行練習を行うことができていた。病気のこともあり早くに有料老人ホームに入居しそこで安心、安全な生活を送っておられた。
訪問リハの現場は基本、在宅、いわゆる家が現場となることが多いのだが中には有料ホームに入居されている方にリハビリのお手伝いをするとも少なくない。
在宅と違って、整った環境だったり適切なケアが身近にあるため危険は少ない分、身体的なケアを中心としたリハビリを行うことが多い。Aさんのリハビリも下肢の筋力を低下させないようにという目標のもとスタートしたのである。
Aさんはとても上品な方であった。
Aさんとのやり取りを重ねるにつれてAさんは『ココア』を淹れるのが得意!だということが判明した。
「今度ぜひ美味しいココア飲んでみたいなー」
その一言がAさんのおもてなし精神にスイッチを入れたのだ。
次の訪問の際、お部屋にお邪魔すると開口一番に
『先生、今日はお時間あるのかしら?』
相手のスケジュールへ気遣いも忘れないAさん。
「んん?大丈夫ですよ。」
そう答えるや否やバイタルを測ることもそっちのけでいざ歩行器を手に取り
「先生、私についてきて」
珍しく積極的、強引なAさん。
そういうと、ホームの共有キッチン?まで案内する。
なんのことや?と思いながらついていくとAさんの歩行器の荷物入れから『ココアの缶』がでてくるではないか。
サプラーイズ!!
「いつも先生にはお世話になってるから、今日は私がもてなしたいの」
そういうと、何分も何分もかけて最高の一杯のココアを入れてくれたのだ。
「私のココアは特別なのよ」
得意げな顔が今も思い出される。
上品なAさんはさらに歩行器の荷物入れからお菓子を取り出した。
「本当はケーキなんて買いに行きたいけど行けないからこれで我慢してちょうだいね。」
なんて可愛いおもてなしだろう。私は訪問リハの仕事そっちのけで最高のアフタヌーンティーを楽しんだのである。
おもてなしはホスピタリティとも訳され、我々人と接する仕事においては大事な精神である。
私はAさんのちょっとした心遣いから改めてホスピタリティとはなんぞや!?と受ける側として考えた。
ホスピタリティ=与える
と勘違いしている人もいるだろう。
何かしてあげることがホスピタリティだと。
違うよね。
Aさんとのお付き合いは10年に渡り病気も進行し今はあのココアを飲むことはできないけど、今でもあのココアの味は忘れない。
可愛いAさんは見える幻視までも私を楽しませてくれた。
「先生、今日はキラキラした片栗粉がお空から降ってくるの、綺麗ねーー」
未だかつて空から降る片栗粉を経験したことないが、きっと綺麗なんだろうなーと想像しつつ、
「キラキラ見えていいですねー」
なんて曖昧な返事をしたら
「いいわけないじゃないのよーー。」とまさかの変化球を、返してくることも。
ホスピタリティ、おもてなし。
目配り・気配り・心配りがまだまだ足りない私であった。
2025.09.08