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カテゴリー: お知らせ

訪問4コマ⑪「家族の専門性って?」



さて、今回お話するのもAさんのお話だ。Aさんは子宮癌を患い闘病し、自宅で療養している方。癌が骨盤や股関節に転移しているものの、外に出たいという希望を叶えるべく、リハビリを頑張っている方である。

前回は頑張ってベット脇に座ることができるようになったというお話をした。初めは短い時間から初め、徐々に時間を伸ばし長く座っても特段痛みや疲れが出ないところまでやってくることができた!

この頃になると、一緒に住んでいた旦那様も奥様のリハビリに興味を持ち始め、今まではリビングでテレビをみて素知らぬ顔だったにも関わらず、そばで一緒にリハビリの時間を過ごすようになってきた。
だんだんと変わっていくAさんに刺激を受けたのだろうか?

 

これからのAさんのリハビリ方針としては『外に出たい』という目標のもと、車椅子に乗る必要が出てきた。比較的しっかり安定して座ることができてきたので車椅子に乗ることは問題なかろう、問題は移乗動作だ。

〈移乗動作は介護の場面でも事故や怪我の多いところだ。ベットや車椅子からの滑落に加えて、フットサポートに足をぶつけて青あざができてしまうことも多々聞く〉

Aさんは長らくのベット上生活というストレスと向かい合うべく食に走り、なかなかの豊潤な体型となっていた。私もリハビリのプロとして移乗動作は得意としていたが、さすがにパワーが足りない。お尻を持ち上げた途端に共倒れになるのが関の山であった。

1人ではどうしようもないこの状態で次なる手は・・・

悩んだ挙句、白羽の矢を立てたのは最近リハビリの時間に興味を抱いてくれた旦那様だ。この手を使うほかない。いやこれ以外に考えられなかった。

 

「あのぉぉぉ~お父さん!(現場ではお父さんと呼んでいた)Aさん車いすに乗せたいんですよ。でも私1人じゃ無理なんで、お父さんのチカラ貸してもらえます???」

「いいよ!どうするの?」

 

相変わらず、ノリのいいお父さんだ。

練り上げた作戦はこうだ!
Aさんは訪問入浴を利用してお風呂に入っていた。その際、バスタオルを身体の下に敷き両脇から持ち上げて湯船に浸かっていた。

その作戦でいこう。あとは私とお父さんの体力が持つかどうか。。。

車いす作戦をケアマネに伝え、リクライニング式の車椅子を借りてもらい、早速取り掛かった。

まずは二人の力試し。
バスタオルを使って持ち上げる練習をした。

んんっ、、、なんとか大丈夫。
これを何度か繰り返し、いざ車いすへ!

お父さんの顔も私の顔も緊張と必死さが漂う。

その顔とは打って変わり、車いすへは優しく優しくそっと下すのである。

「Aさん、痛くない?」

「大丈夫よぉ~」

相変わらず、とにかく明るいAさんである。

息を整え車いすの背もたれをゆっくりゆっくりと上げていく。Aさんの視界が天井からお父さんへと移る。二人見合ってなにか気恥ずかしそうな顔だ。

「せっかく車いす乗ったから、家の中でも探検しますか?」

バリアフリーではないその家は車いすで移動するにはかなり制限がある。1番気になっていた台所に向かってみた。中までは入れなかったけど、全体は見渡せるこの位置。かつてはここで沢山の料理を作った台所。

「こんなに汚くなってる~!!!」

怒ったような、でも台所を確認できて嬉しいような、そんな声色であった。

やっぱり主婦だなぁ!としみじみ感じたのである。

 

さて、車いすに乗れただけでも満足していた私であるが、、、
この先の『外に出る!』という目標を掲げながらも、どうしたらいいのかなぁと思いながらいた。車いすで外に出るためにスロープを入れるにしても場所がない。玄関から外に出るのは物理的に無理だった。

そんな悩める私とは違い、車いすに乗れたことで火がついた人物がいた。

それは誰か?

それはなんと、お父さんであった。

いままでリハビリに関心のなかったお父さんは行動に移った。

近所に住む息子や婿殿に連絡をとったのだ。

 

そしてそして、、、

訪問時、ニコニコ、いや、にたぁぁっとやや悪さをした少年のような顔のAさん。

「先生!ドライブしたの!!!」

「えっーーー!!!!!」

なんと男どもが集まり『力技』という荒業を使い窓から車いすごとAさんを連れ出し、なんと車にものせドライブを決行したではないか!

アンビリーバブル!!

「楽しかったぁ~また行きたい!」

本当に嬉しそうなAさんだ。

少し離れてこのやりとりを見ている旦那様も、ことをなり遂げた満足感かにたぁぁっと嬉しそうな顔をしている。

「重くて大変だったよ~」なんて小言も吐くが、それさえも満ち足りている。

 

『想いは人を動かし、行動は人を変える!』

 

Aさんの外に出たいという想いはリハビリに無関心だったお父さんを動かし、そして家族の行動までも変えてしまった。

介護はチームだ。ケアマネや医師をはじめ、それぞれがそれぞれの専門性を持ち役割を担う。

では、家族は?家族としての専門性・役割ってなんだろう?

Aさんの家族は、Aさんにとって私にはできなかった最高の楽しみをもたらしてくれた。

 

介護の現場における家族の専門性はもちろんそれぞれ異なる。

我々はそれを含めてチームとして最良の医療・介護を見極めて選んでいかなければならない。

決して最高でなくてよい。

外に出るようになってAさんの活動量は明らかに増えたにも関わらず、一向に痩せない。

動くようになって、お腹も空くようになったとさ((´∀`))ケラケラ

まぁそれもよし!!!

車いす移乗の介護負担は、まだまだ減りそうにないのであった。。。

 

— 完 —

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2021.11.04

マザース通信 10月号 Vol.42

2021.10.7発行

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2021.10.11

訪問4コマ⑩「最大のリスクとは?」



とある携帯CMに、、

 

「リスクを冒さないことこそ、最大のリスクだ!」

 

というセリフがある。

リハビリの仕事はリスクとの隣り合わせ。そして、リスクを重んじるばかりに、利用者様の真の声に気が付かないこともある。

そんな私をはっと目覚めさせてくれたのは本人、そして取り巻く家族だった。

 

Aさんはとても可愛らしいおかあちゃんだった。いや、もう孫もいたからおばあちゃんか!?

Aさんは子宮癌を患い手術を繰り返していた。会った時はベット上での生活を余儀なくされ、食事もベットの上、日中もベットの上でテレビを見て過ごされていた。
長らく動かさなかった関節は硬くなり、自分で動かすこともやっとであった。ベット上での寝返りも、やーーーっとのこと。

そしてAさんのストレスは膨らむ一方。ストレスの増加とともに、食べることが唯一の楽しみだったAさんは身体もどんどん膨らんでいってしまった。

東北訛りを残したAさん。

そんなAさんの想いは『外に出たいねぇ~』

もう、しばらく外に出ていない状態であった。

 

在宅リハビリの場面で、1番困る事は医療的な情報がなかなか得られない事である。病院にかかってなければ最新の血液データはもちろんのこと、レントゲンやCTなどはないに等しい。リハビリを行うにあたり根拠となる情報がないのである。往診でも検査は可能であるが、入院中ほどのスピードでは結果は得られない。

Aさんは体調が落ち着いていた事、往診医が定期的に入っていたこともあり病院には通院していなかった。

Aさんの想いを叶えるべく取り組むリハビリには硬くなった下肢、特に股関節を動かしてしっかりと座れるようにする必要がある。
車椅子に乗るにあたり、股関節が硬いと椅子からずり落ちてしまう可能性が高いからだ。

しかし、ここで私は壁にぶち当たる。Aさんの癌は左股関節にも転移しており、骨盤も癌による骨折のためボルトで止めているという情報が。。。

「なにぃーーーーー!?」

Aさんから見せてもらった骨盤と股関節のレントゲン写真は手術直後のもので、もう何年も前のものである。

癌が骨に転移しているということは、骨折するリスクが高いということ。何気ない関節可動域運動でもボキッっといくことも多分に考えられるのだ。

私は医師に確認してみた。

「関節運動はどのくらいの程度でやればいいのか?リスクは?」

医師からの返答はこうだ。

『無理のない程度にやってください。』

「せ、、、、先生(涙)」

 

私は医師からの返答を「リハビリのプロとしてあなたの腕を信じます」と認めてもらったと前向き(かなり強引!笑)に捉え、関節運動を試みることにした。

 

在宅リハビリのリスク管理として、毎日経過を追うことができないこともある。病院では何か異変を感じたらすぐに対処できる一方、在宅では週に1回または2回程度の訪問でリスク管理をする。

そういうことから、本人や家族への指導も重要である。そして他の介入サービスとの連携も!

「運動後、痛くなった!」と連絡があっても、私たちはすぐに駆けつけることができない。なので本人や家族への対処の方法、ケアマネジャーを通じて他の介入サービスから情報を得ることもリハビリを進める上でのポイント・リスク管理のひとつです。

 

Aさんは旦那様と暮らしていたため旦那様にもリハビリでどんなことをするのか、その後の経過・予後予測をお伝えした。

『今日、久しぶりに股関節をグイっと動かしたんですよ。このあと痛くなるかもしれません。何かあったら連絡くださいね』

とてもわかりやすく伝えたつもりだ。

当の旦那様はというと、、、

『大丈夫だろう。いったくねぇべー。なぁかぁちゃん!』

どこから来るんだろう。その自信は。。。

旦那様の自信とは裏腹に、内心のドキドキが次の訪問日まで続いていた私であった。

翌週、どうだったか聞くと、なんでもなかったと。。。

ほーーっと息をつける私。

 

そんな緊張と安堵を繰り返しながら、Aさんはベットに座ることができるようになった。

なかなかの大きな身体を起こすのはやっとのことだったが、Aさんはベット柵を持ちしっかりと座ることができたのだ。

そんなある日、リハビリをしていると孫が遊びにきた。初めて座った姿のAさんをみて、孫はとても驚き駆け寄ってきたのだ。

『おばあちゃんすごいね!座れるんだね!すごいね!』

普段と違った目線で話す2人。

ふと笑顔になるAさん。

 

その笑顔を見ていると、リスクばかりを考え過ぎ、怖がり過ぎていた私は大事なことを忘れていた。

「なんのためにリハビリを頑張っているのか?」

リスクを回避することばかりにとらわれ、本来の目標や目的を見落としてなかったかなと。

そして、私は最大のリスクを冒すところであった。

そう『本人の意思や気持ちを無視したリハビリを行ってしまう』というリスクを。。。

 

「リスクをしっかり管理し、挑戦することこそ最大の訪問リハビリだ!」

 

と、満島ひかりさんに言ってもらいたいものである!笑

さてさて、リハビリの一つの目標である『座れるようになる』を達成したAさん。

実はAさんの挑戦はまだまだ続くのである。

 

では、その話はこの次に、、、

 

— 完 —

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2021.10.06

マザース通信 9月号 Vol.41

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2021.09.01

訪問4コマ⑨「物差しとメジャー」



皆さん、ALSという病気を一度は聞いたことがあるだろうか?

ALS(筋萎縮性側索硬化症):手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだん痩せて力がなくなっていく病気である。

 

私が初めてALSの方と出会ったのは社会人となり3年目のこと。出逢ったAさんはALSを患って長く、人工呼吸器を装着し、足は自身で動かすことができず、コミュニケーションはまぶた使いYES・NOにてはかっていた。ALSの方にお会いしたのが初めてだけではなく、在宅にて人工呼吸器をつけ生活をしている方に会うのも初めてだった私は、当時とても緊張していたのを覚えている。前任者から担当を引き継ぎ、私1人でリハビリを開始する際も何を話せばいいのだろう?どうすればいいのか?ずっと緊張しっぱなしだった。

 

私の勝手なイメージかもしれないが、、、
リハビリという仕事は病院で行うリハビリと在宅で行うリハビリ、向き合い方が違うと感じる。

病院でのリハビリは「病気、疾患と向き合う」在宅でのリハビリは「人生と向き合う」

 

Aさんとのリハビリは教科書に書いてある、大学で習ってきたリハビリや、自分の物差しだけを武器にして仕事をしていた私にとって、壁打ちテニスをやっているような感覚であった。

『私は何のために、何の目的に、そして、何ができるのだろう。。。』

パコーン

パコーン

私の1人テニスは続く。。

 

そんなAさんの生活は、驚くことばかりであった。Aさんの家では可愛い小型犬を飼っていた。緊張しっぱなしの私は『大丈夫なのかな?』とただただ不安に感じていた。

人工呼吸器使ってるのに、、、とか。

ワンちゃんが悪さしないかな?とか。

そしてそんなある時、散歩に出てみよう!という計画が持ち上がった。

『さ、さ、散歩?』

私の心の第一声である。

私の声をよそに、家族含め、関わっているヘルパーさん、医療機器メーカーの担当者さんなど集まり、何が必要なのか?いつにするか?など話が進む。

その中で私は何を担えばいいのかわからなかった。ただただ進む計画を聞き、ドキドキしていたのである。

 

いよいよ決戦の日(笑)確たる準備をし、、、といっても実際に準備をしたのは玄関から道路に出る際、車椅子が通る為のスロープを用意しただけ。あと決めたことは、誰が何を運ぶか。人工呼吸器を誰がもって、車椅子を誰が押すのかなどゆる〜い計画にて実行されたのである。
『大丈夫なのかな?』私は不安ばかり抱いていた。

 

実際散歩は家の周りを20〜30分ほどグルーっと回った程度であったが無事ミッションクリア!Aさんは何年かぶりの散歩を堪能したのである。

ほっと一息、Aさんに感想を聞く。

「楽しかっですか?」

『パチリ!』瞼が閉じる。

ふと私の頬が緩む。

その時だ。ふぅ〜と肩の力がぬけたのを感じた。

『これでいいんだ!』

そう感じた。

ついつい専門職であると、知識ばかりが独り歩きし、利用者さんの希望や人生と向き合ってないことがある。もちろん専門職としての責任は放棄してはならないが、押し付けになってはならない。

一緒に散歩をするという壮大な計画は、Aさんにとってもそして私にとっても大きな変化になった。

今日もワンちゃんはAさんの周りをウロウロ。たまにAさんのベットの上にのりバタバタと跳ね回っている。

わぁっ!と未だにびっくりする私、、、

ふと、Aさんの顔を見る。

苦痛でもなく、笑顔でもなく、じっと天上を見つめている。私からも特段話しかけはしない。

 

可能性を語り始めたらキリはない。しかしその可能性に目を向けず、正しいことを全うすることは果たして、本当に正しいのか?

私は改めて自分の無力さを感じると共に、嬉しさとワクワク感を感じていた。自分の無力さを感じてから私の武器は、物差しではなくメジャーとなった。その人その人で長さが変わるメジャー。限りのないメジャー。引っ張ればどのくらい伸びるのかな?

 

今日もワンちゃんはAさんの上に乗り動き回る。

んんっ?

案外、私よりもリハビリ上手いんじゃないか?

極上のリラクゼーションなっているのか?

ワンちゃんめ!

私はメラメラとライバル意識を燃やすのであった(ΦωΦ)

 

— 完 —

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2021.08.30

マザース通信 8月号 Vol.40

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2021.08.12

訪問4コマ⑧「ココロ踊るリハビリを、、、」



今、このコラムを書いている時、テレビでは大谷君フィーバー!ホームランダービーやオールスターゲームと毎日ドキドキワクワク、どんな結果が出たのかと楽しみでたまらない。

さてさて、私は常日頃からドキドキ、ワクワク、『明日が楽しみになるリハビリを!』をスローガンのもと仕事をさせていただいている。ドキドキ、ワクワクはどんなことでもいい!もちろんリハビリの専門職の身としては「身体が良くなった」「◯◯ができるようになった!」と達成感を得てもらえると、専門家冥利に尽きるのである。

 

 

私が担当しているのは、Aさん:80代前半の女性。
少し認知症が進み、自身の管理がだんだんできなくなってしまった。年々歳を重ねるごとに気持ちも後ろ向きになってきてしまっている。

口癖は
『もうだめぇ』とか『今日は無理ぃ』だとか。。。

そんなAさんは世の中のことには敏感だ。テレビを見ながら世界のどこかで起きてる暴動に対して憂いたり、ちょっとやってしまった政治家さんに怒ったりと、意外と忙しないのである。

Aさんへの私の役割は、だんだん活動量が減ってきているので運動を行って現在の身体機能を維持していくことと、運動を通しての精神賦活だ。

 

 

私は常日頃から思うに「ココロが動けばカラダは動く!」と根拠のない仮説を立てている。

あっ!あそこにいきたいわぁ。
あっ!あれを食べたいわぁ。

なんて動機(ココロが動く)があると人はそのために活動する。

動機も様々で自分の利益に対しての動機もあれば、誰かのための動機もある。

『娘がなーーんもやんないから、こんな歳になってまで私がご飯の支度しなきゃならないのよ』と愚痴をいいながらも毎日家事に勤しんでた方が、その必要がなくなった途端、特別病気になったわけでもないのに認知症が進行したり、身体機能が低下したりするのはよくあることだ。

もちろん、『動かなくなったらどんどん悪くなるよ!』という動機付けも間違いではないが、私はポジティブな動機をいつも探している。

◯◯はずっと自分でやりたいから動けなくなったら困る。だから運動する!というポジティブな動機付けは、運動自体も効果が高いように感じるのだ。マイナスな動機付けは、自身のできなくなった変化に囚われやすく、できていることになかなか目が向かないからだ。

 

 

さてさてAさんに話を戻そう。

まずはAさんの動機を一緒に探っていかなければ。。。

Aさんのポジティブな動機を探しつつリハビリは始まった。
コミュニケーションを通して、過去の体験を探ったり好きなことを聞いたり。
認知症による物忘れのため、なかなか事が定着していかないのも考慮しつつの作業である。

ある時、Aさんはテレビを見ながらいった。
『ホント、この子素敵!』

この子とは、そう、大谷 翔平選手。

『ホント素敵よねぇ~~。顔もいいし、爽やかだし、気持ちがいい!』

遠い異国の地で活躍する大谷君は、ひとりファンをゲットしたようだ。

そして、Aさんはおもむろに大谷君の経歴や家族構成など語り始めた。なんでもない会話かもしれないが、私はびっくりしたのである。

なぜならAさんは薬を飲んだそばから薬を飲んだことを忘れ、食事を摂ったそばから『食べたかしら?』と自問自答しているのが日常なのである。そんなAさんが、私が知らない大谷君情報を熱く語り始めたのである。

 

 

『こんな若い子が外国で頑張ってるんだから、私も頑張らないとね!』

大谷君は1人の女性のココロを動かしたのだ!

よしよし調子がいいなぁ!
と思った私はAさんに聞いてみた。

『Aさん、私の名前覚えてます?』

『・・・ごめんなさーぃ。忘れちゃった。。。』

私はAさんのココロを動かすには、まだまだ修行が足りないらしい、、、

 

— 完 —

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2021.08.05

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