訪問4コマ⑫「BB弾に込めた想い」
Sさんは、、、
強かった。
優しかった。
そしてなりより、、、
悔しかった。
初めて会ったSさんはベットにいた。
電動ベットの背もたれをあげ、陽気に挨拶を交わしてくれた。
そばには高齢のお母さんも優しそうな眼差しと心配を押し込めた表情で私を出迎えてくれた。
初めて介護サービスを使う。
心配でたまらないんだろう。
Sさんは癌を患っていた。
その癌はなかなかの曲者であり脊髄へと転移をし、Sさんの下半身の機能を蝕んでいた。Sさんはすでにベットから自力で起き上がることも座ることもできず、もちろん歩くこともできなくなっていた。
Sさんはまだ若かった。
当時60代。
同世代はまだ仕事をしたり趣味を謳歌したり。きっと奥歯をギュッと噛み締めることや大きなため息とともに諦めたことも多かったと思う。
そんなSさんは病院での治療から在宅での療養生活を選んだ。
そんな中、リハビリとして私は呼ばれたのである。
簡単な手続きをしたのち、ふとSさんは私に聞いてきた。
『先生、私はリハビリでまた歩けるようになりますか?』
事前に得ていた医学情報からはきっと歩くのは無理だった。
私は意を決して伝えた。
『また歩けるようになる事は難しいと思います。でもSさんがこの家から外に出ることはできます。』
と、初対面の私は思いつく限りの私のリハビリ計画、構想をSさんに伝えたのである。
『わかりました。お願いします。』
そこから私とSさんのリハビリは始まった。
ご自身で身体を動かすことが難しく癌のため浮腫んだ両下肢。どんどん関節は硬くなっており、リハビリ開始時は車椅子に乗ってもフットサポート(足を乗せる台)に足を乗せることができない状態。股関節も曲がらなくなってきていたため、ベッドサイドで座ることも大変であり、車椅子に座っても時間が経つとどんどんお尻がずり落ちてきてしまっていた。
Sさんはリハビリを頑張った。
きっと葛藤した日々もあったろう。しかしそんな気持ちはつゆ見せず、ただ私が掲げた目標に向かってリハビリを取り組んでくれた。嫌になることもあったに違いない。でも、毎回笑顔で取り組んでくれた。そして私をも笑わせてくれる、なんとも素敵な時間を一緒に過ごした。その頑張りもあり、Sさんは車椅子に長く座ることもできるようになり電動車椅子を導入しご家族と散歩を楽しむことができるようになった。
電動車椅子に
『でんちゃん』
と名前をつけるお茶っめっぷりもさすがである。
リハビリを進めるにあたり、私はずっと引っかかっていたことがあった。初対面できっぱりと「歩けない」と宣告した私。きっとショックだったに違いない、、、にもかかわらず、笑顔で懸命にリハビリに取り組んでくれる。どんな気持ちだったのだろうと。。。
ある日、私はSさんに聞いてみた。
私の「歩くことは難しい」という判断に関してどう思ったか?
Sさんは「はっきり言ってくれてよかった。」と静かに話してくれた。「曖昧にされるより幾分もよかった。リハビリで何をすべきが示してくれて納得して取り組むことができた」と。
きっとSさんの優しさによる部分もあるだろう。その言葉に私は少し救われた。救われてしまったのだ。
そしてある日Sさんのお宅に伺うと、廊下に見慣れない缶が。。丸く円を書き『的(まと)』をつけていた。
「Sさん。廊下のあれ、なんですか?」
「あぁ、あれね、、、」
おもむろに枕の下に手を伸ばすSさん。出てきたものは、、、なんと「銃」であった。もちろん「御用だ!御用だ!」になってしまうような銃ではなく、おもちゃのBB弾を込めて使う銃である。
全く意味がわからない私???
「これでね、廊下の缶を目掛けて打つんだよ。僕、ベッドから動くことができないでしょ。だから考えたストレス発散方法!」
と言うと銃を構え、廊下の缶目掛けて一発「バーーーンッ!」と打ち込んでくれた。
「結構これ、難しいんだよね。逆にストレス溜まったりして!笑」
とSさん。
冗談混じりのやりとり。
普段と変わらない空気。
しかし、私のココロは何かを感じていた。
しばらくしてSさんは天国へと旅立った。家族をはじめ多くの友人に囲まれ、最後まで笑顔を絶やさず旅立った。
Sさんは「死」をきっとどこかで意識していたに違いない。
今やっているリハビリに何の意味があるのかと思うこともあったと思う。
私たちが思う。
考える以上に日々葛藤して、打ち消して、そしてまた悩んでの日々を繰り返していたに違いない。
その中で一つの小さな希望に大きな期待をかけ、そして絶望し、でも周囲に心配はかけまいと笑顔という武器を最大限に活用していたのであろう。
そんな気持ちを最後まで見せなかったSさん。
そしてSさんの言葉に救われてしまった私。
そしてBB弾。。。
生きる意味、死ぬ事への覚悟。
Sさんは最後まで私に弱音を吐かなかった。いや私には吐けなかったのかもしれない。
良くなりたい!生きたい!という気持ちの強かったSさんだからこそ、リハビリの場面では全く弱音を吐けなかった、良くなるために吐きたくなかったのだ。
私はそのSさんの覚悟を全く気がついてなかったのだ。
BB弾を見るまでは。。
銃を構えながら的を狙うSさんの姿を思い出し、今も考えることがある。
リハビリってなんなんだろうと。
バーーーンとBB弾が缶を弾く音を思い出しながら、今日も想う。
Sさんの言葉に今も、今現在も救われている私がいることを。
Sさんとのリハビリは決して長い時間ではなかったが、いま私が向き合う多くの利用者様へと繋がっている。
Sさんに、心からありがとうと伝えたい。
— 完 —
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2021.12.06
訪問4コマ⑪「家族の専門性って?」
さて、今回お話するのもAさんのお話だ。Aさんは子宮癌を患い闘病し、自宅で療養している方。癌が骨盤や股関節に転移しているものの、外に出たいという希望を叶えるべく、リハビリを頑張っている方である。
前回は頑張ってベット脇に座ることができるようになったというお話をした。初めは短い時間から初め、徐々に時間を伸ばし長く座っても特段痛みや疲れが出ないところまでやってくることができた!
この頃になると、一緒に住んでいた旦那様も奥様のリハビリに興味を持ち始め、今まではリビングでテレビをみて素知らぬ顔だったにも関わらず、そばで一緒にリハビリの時間を過ごすようになってきた。
だんだんと変わっていくAさんに刺激を受けたのだろうか?
これからのAさんのリハビリ方針としては『外に出たい』という目標のもと、車椅子に乗る必要が出てきた。比較的しっかり安定して座ることができてきたので車椅子に乗ることは問題なかろう、問題は移乗動作だ。
〈移乗動作は介護の場面でも事故や怪我の多いところだ。ベットや車椅子からの滑落に加えて、フットサポートに足をぶつけて青あざができてしまうことも多々聞く〉
Aさんは長らくのベット上生活というストレスと向かい合うべく食に走り、なかなかの豊潤な体型となっていた。私もリハビリのプロとして移乗動作は得意としていたが、さすがにパワーが足りない。お尻を持ち上げた途端に共倒れになるのが関の山であった。
1人ではどうしようもないこの状態で次なる手は・・・
悩んだ挙句、白羽の矢を立てたのは最近リハビリの時間に興味を抱いてくれた旦那様だ。この手を使うほかない。いやこれ以外に考えられなかった。
「あのぉぉぉ~お父さん!(現場ではお父さんと呼んでいた)Aさん車いすに乗せたいんですよ。でも私1人じゃ無理なんで、お父さんのチカラ貸してもらえます???」
「いいよ!どうするの?」
相変わらず、ノリのいいお父さんだ。
練り上げた作戦はこうだ!
Aさんは訪問入浴を利用してお風呂に入っていた。その際、バスタオルを身体の下に敷き両脇から持ち上げて湯船に浸かっていた。
その作戦でいこう。あとは私とお父さんの体力が持つかどうか。。。
車いす作戦をケアマネに伝え、リクライニング式の車椅子を借りてもらい、早速取り掛かった。
まずは二人の力試し。
バスタオルを使って持ち上げる練習をした。
んんっ、、、なんとか大丈夫。
これを何度か繰り返し、いざ車いすへ!
お父さんの顔も私の顔も緊張と必死さが漂う。
その顔とは打って変わり、車いすへは優しく優しくそっと下すのである。
「Aさん、痛くない?」
「大丈夫よぉ~」
相変わらず、とにかく明るいAさんである。
息を整え車いすの背もたれをゆっくりゆっくりと上げていく。Aさんの視界が天井からお父さんへと移る。二人見合ってなにか気恥ずかしそうな顔だ。
「せっかく車いす乗ったから、家の中でも探検しますか?」
バリアフリーではないその家は車いすで移動するにはかなり制限がある。1番気になっていた台所に向かってみた。中までは入れなかったけど、全体は見渡せるこの位置。かつてはここで沢山の料理を作った台所。
「こんなに汚くなってる~!!!」
怒ったような、でも台所を確認できて嬉しいような、そんな声色であった。
やっぱり主婦だなぁ!としみじみ感じたのである。
さて、車いすに乗れただけでも満足していた私であるが、、、
この先の『外に出る!』という目標を掲げながらも、どうしたらいいのかなぁと思いながらいた。車いすで外に出るためにスロープを入れるにしても場所がない。玄関から外に出るのは物理的に無理だった。
そんな悩める私とは違い、車いすに乗れたことで火がついた人物がいた。
それは誰か?
それはなんと、お父さんであった。
いままでリハビリに関心のなかったお父さんは行動に移った。
近所に住む息子や婿殿に連絡をとったのだ。
そしてそして、、、
訪問時、ニコニコ、いや、にたぁぁっとやや悪さをした少年のような顔のAさん。
「先生!ドライブしたの!!!」
「えっーーー!!!!!」
なんと男どもが集まり『力技』という荒業を使い窓から車いすごとAさんを連れ出し、なんと車にものせドライブを決行したではないか!
アンビリーバブル!!
「楽しかったぁ~また行きたい!」
本当に嬉しそうなAさんだ。
少し離れてこのやりとりを見ている旦那様も、ことをなり遂げた満足感かにたぁぁっと嬉しそうな顔をしている。
「重くて大変だったよ~」なんて小言も吐くが、それさえも満ち足りている。
『想いは人を動かし、行動は人を変える!』
Aさんの外に出たいという想いはリハビリに無関心だったお父さんを動かし、そして家族の行動までも変えてしまった。
介護はチームだ。ケアマネや医師をはじめ、それぞれがそれぞれの専門性を持ち役割を担う。
では、家族は?家族としての専門性・役割ってなんだろう?
Aさんの家族は、Aさんにとって私にはできなかった最高の楽しみをもたらしてくれた。
介護の現場における家族の専門性はもちろんそれぞれ異なる。
我々はそれを含めてチームとして最良の医療・介護を見極めて選んでいかなければならない。
決して最高でなくてよい。
外に出るようになってAさんの活動量は明らかに増えたにも関わらず、一向に痩せない。
動くようになって、お腹も空くようになったとさ((´∀`))ケラケラ
まぁそれもよし!!!
車いす移乗の介護負担は、まだまだ減りそうにないのであった。。。
— 完 —
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2021.11.04
マザース通信 10月号 Vol.42
2021.10.7発行
[コンテンツ]
✓ 「RUN伴+なかの2021」参加報告!
✓ 連載第10話!訪問あるある4コマ漫画
✓ Rehastagram (リハスタグラム)
※PT・OT経験者:積極採用中!詳しくはこちらまで!
2021.10.11
訪問4コマ⑩「最大のリスクとは?」
とある携帯CMに、、
「リスクを冒さないことこそ、最大のリスクだ!」
というセリフがある。
リハビリの仕事はリスクとの隣り合わせ。そして、リスクを重んじるばかりに、利用者様の真の声に気が付かないこともある。
そんな私をはっと目覚めさせてくれたのは本人、そして取り巻く家族だった。
Aさんはとても可愛らしいおかあちゃんだった。いや、もう孫もいたからおばあちゃんか!?
Aさんは子宮癌を患い手術を繰り返していた。会った時はベット上での生活を余儀なくされ、食事もベットの上、日中もベットの上でテレビを見て過ごされていた。
長らく動かさなかった関節は硬くなり、自分で動かすこともやっとであった。ベット上での寝返りも、やーーーっとのこと。
そしてAさんのストレスは膨らむ一方。ストレスの増加とともに、食べることが唯一の楽しみだったAさんは身体もどんどん膨らんでいってしまった。
東北訛りを残したAさん。
そんなAさんの想いは『外に出たいねぇ~』
もう、しばらく外に出ていない状態であった。
在宅リハビリの場面で、1番困る事は医療的な情報がなかなか得られない事である。病院にかかってなければ最新の血液データはもちろんのこと、レントゲンやCTなどはないに等しい。リハビリを行うにあたり根拠となる情報がないのである。往診でも検査は可能であるが、入院中ほどのスピードでは結果は得られない。
Aさんは体調が落ち着いていた事、往診医が定期的に入っていたこともあり病院には通院していなかった。
Aさんの想いを叶えるべく取り組むリハビリには硬くなった下肢、特に股関節を動かしてしっかりと座れるようにする必要がある。
車椅子に乗るにあたり、股関節が硬いと椅子からずり落ちてしまう可能性が高いからだ。
しかし、ここで私は壁にぶち当たる。Aさんの癌は左股関節にも転移しており、骨盤も癌による骨折のためボルトで止めているという情報が。。。
「なにぃーーーーー!?」
Aさんから見せてもらった骨盤と股関節のレントゲン写真は手術直後のもので、もう何年も前のものである。
癌が骨に転移しているということは、骨折するリスクが高いということ。何気ない関節可動域運動でもボキッっといくことも多分に考えられるのだ。
私は医師に確認してみた。
「関節運動はどのくらいの程度でやればいいのか?リスクは?」
医師からの返答はこうだ。
『無理のない程度にやってください。』
「せ、、、、先生(涙)」
私は医師からの返答を「リハビリのプロとしてあなたの腕を信じます」と認めてもらったと前向き(かなり強引!笑)に捉え、関節運動を試みることにした。
在宅リハビリのリスク管理として、毎日経過を追うことができないこともある。病院では何か異変を感じたらすぐに対処できる一方、在宅では週に1回または2回程度の訪問でリスク管理をする。
そういうことから、本人や家族への指導も重要である。そして他の介入サービスとの連携も!
「運動後、痛くなった!」と連絡があっても、私たちはすぐに駆けつけることができない。なので本人や家族への対処の方法、ケアマネジャーを通じて他の介入サービスから情報を得ることもリハビリを進める上でのポイント・リスク管理のひとつです。
Aさんは旦那様と暮らしていたため旦那様にもリハビリでどんなことをするのか、その後の経過・予後予測をお伝えした。
『今日、久しぶりに股関節をグイっと動かしたんですよ。このあと痛くなるかもしれません。何かあったら連絡くださいね』
とてもわかりやすく伝えたつもりだ。
当の旦那様はというと、、、
『大丈夫だろう。いったくねぇべー。なぁかぁちゃん!』
どこから来るんだろう。その自信は。。。
旦那様の自信とは裏腹に、内心のドキドキが次の訪問日まで続いていた私であった。
翌週、どうだったか聞くと、なんでもなかったと。。。
ほーーっと息をつける私。
そんな緊張と安堵を繰り返しながら、Aさんはベットに座ることができるようになった。
なかなかの大きな身体を起こすのはやっとのことだったが、Aさんはベット柵を持ちしっかりと座ることができたのだ。
そんなある日、リハビリをしていると孫が遊びにきた。初めて座った姿のAさんをみて、孫はとても驚き駆け寄ってきたのだ。
『おばあちゃんすごいね!座れるんだね!すごいね!』
普段と違った目線で話す2人。
ふと笑顔になるAさん。
その笑顔を見ていると、リスクばかりを考え過ぎ、怖がり過ぎていた私は大事なことを忘れていた。
「なんのためにリハビリを頑張っているのか?」
リスクを回避することばかりにとらわれ、本来の目標や目的を見落としてなかったかなと。
そして、私は最大のリスクを冒すところであった。
そう『本人の意思や気持ちを無視したリハビリを行ってしまう』というリスクを。。。
「リスクをしっかり管理し、挑戦することこそ最大の訪問リハビリだ!」
と、満島ひかりさんに言ってもらいたいものである!笑
さてさて、リハビリの一つの目標である『座れるようになる』を達成したAさん。
実はAさんの挑戦はまだまだ続くのである。
では、その話はこの次に、、、
— 完 —
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2021.10.06
マザース通信 9月号 Vol.41
2021.9.1発行
[コンテンツ]
✓ 訪問看護あるあるピクトグラム
✓ 連載第9話!訪問あるある4コマ漫画
✓ Rehastagram (リハスタグラム)
※PT・OT経験者:積極採用中!詳しくはこちらまで!
2021.09.01
訪問4コマ⑨「物差しとメジャー」
皆さん、ALSという病気を一度は聞いたことがあるだろうか?
ALS(筋萎縮性側索硬化症):手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだん痩せて力がなくなっていく病気である。
私が初めてALSの方と出会ったのは社会人となり3年目のこと。出逢ったAさんはALSを患って長く、人工呼吸器を装着し、足は自身で動かすことができず、コミュニケーションはまぶた使いYES・NOにてはかっていた。ALSの方にお会いしたのが初めてだけではなく、在宅にて人工呼吸器をつけ生活をしている方に会うのも初めてだった私は、当時とても緊張していたのを覚えている。前任者から担当を引き継ぎ、私1人でリハビリを開始する際も何を話せばいいのだろう?どうすればいいのか?ずっと緊張しっぱなしだった。
私の勝手なイメージかもしれないが、、、
リハビリという仕事は病院で行うリハビリと在宅で行うリハビリ、向き合い方が違うと感じる。
病院でのリハビリは「病気、疾患と向き合う」在宅でのリハビリは「人生と向き合う」
Aさんとのリハビリは教科書に書いてある、大学で習ってきたリハビリや、自分の物差しだけを武器にして仕事をしていた私にとって、壁打ちテニスをやっているような感覚であった。
『私は何のために、何の目的に、そして、何ができるのだろう。。。』
パコーン
パコーン
私の1人テニスは続く。。
そんなAさんの生活は、驚くことばかりであった。Aさんの家では可愛い小型犬を飼っていた。緊張しっぱなしの私は『大丈夫なのかな?』とただただ不安に感じていた。
人工呼吸器使ってるのに、、、とか。
ワンちゃんが悪さしないかな?とか。
そしてそんなある時、散歩に出てみよう!という計画が持ち上がった。
『さ、さ、散歩?』
私の心の第一声である。
私の声をよそに、家族含め、関わっているヘルパーさん、医療機器メーカーの担当者さんなど集まり、何が必要なのか?いつにするか?など話が進む。
その中で私は何を担えばいいのかわからなかった。ただただ進む計画を聞き、ドキドキしていたのである。
いよいよ決戦の日(笑)確たる準備をし、、、といっても実際に準備をしたのは玄関から道路に出る際、車椅子が通る為のスロープを用意しただけ。あと決めたことは、誰が何を運ぶか。人工呼吸器を誰がもって、車椅子を誰が押すのかなどゆる〜い計画にて実行されたのである。
『大丈夫なのかな?』私は不安ばかり抱いていた。
実際散歩は家の周りを20〜30分ほどグルーっと回った程度であったが無事ミッションクリア!Aさんは何年かぶりの散歩を堪能したのである。
ほっと一息、Aさんに感想を聞く。
「楽しかっですか?」
『パチリ!』瞼が閉じる。
ふと私の頬が緩む。
その時だ。ふぅ〜と肩の力がぬけたのを感じた。
『これでいいんだ!』
そう感じた。
ついつい専門職であると、知識ばかりが独り歩きし、利用者さんの希望や人生と向き合ってないことがある。もちろん専門職としての責任は放棄してはならないが、押し付けになってはならない。
一緒に散歩をするという壮大な計画は、Aさんにとってもそして私にとっても大きな変化になった。
今日もワンちゃんはAさんの周りをウロウロ。たまにAさんのベットの上にのりバタバタと跳ね回っている。
わぁっ!と未だにびっくりする私、、、
ふと、Aさんの顔を見る。
苦痛でもなく、笑顔でもなく、じっと天上を見つめている。私からも特段話しかけはしない。
可能性を語り始めたらキリはない。しかしその可能性に目を向けず、正しいことを全うすることは果たして、本当に正しいのか?
私は改めて自分の無力さを感じると共に、嬉しさとワクワク感を感じていた。自分の無力さを感じてから私の武器は、物差しではなくメジャーとなった。その人その人で長さが変わるメジャー。限りのないメジャー。引っ張ればどのくらい伸びるのかな?
今日もワンちゃんはAさんの上に乗り動き回る。
んんっ?
案外、私よりもリハビリ上手いんじゃないか?
極上のリラクゼーションなっているのか?
ワンちゃんめ!
私はメラメラとライバル意識を燃やすのであった(ΦωΦ)
— 完 —
produced by hyoudou
2021.08.30
マザース通信 8月号 Vol.40
2021.8.1発行
[コンテンツ]
✓ 祝!開設6周年!
✓ 連載第8話!訪問あるある4コマ漫画
✓ 健康雑学クイズ
✓ Rehastagram
※PT・OT経験者:積極採用中!詳しくはこちらまで!
2021.08.12